養育費について具体的な金額の取り決めをしていて、債務名義があるにもかかわらず、相手が任意に支払わない場合に差し押さえをすることができます。
1.差し押さえ(強制執行)とは
民法では、ある債務について債務者が任意に履行をしない場合、債権者は履行の強制を請求することができると定めています。
民法414条1項 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
履行の強制の具体的な手続きが「強制執行」であり、強制執行の種類として「直接強制」「代替執行」「間接強制」があります。
- 直接強制:債務者の財産を直接取り上げたりお金に換えて債権の内容を実現する
- 代替執行:代わりの者に債務を履行させてその費用を債務者に請求する
- 間接強制:履行しないことに対してペナルティとして金銭を払わせる
これらのうち「代替執行」と「間接強制」は、物の引渡しや、債務者による行為を目的とした債権のための方法です。お金の支払いを内容とする債権は「金銭債権」といい、直接強制のみをすることができます。養育費も金銭債権の一種です。
そして金銭債権の直接強制の具体的な方法は、対象となる財産によって民事執行法に細かく規定されていますが、基本的には「差し押さえ」と「換価」です。「差し押さえ」とはある財産について、所有者による管理処分権を排除することをいいます。つまり、勝手に売却したり使い込んだりすることができなくなります。そのような状態にしておいて、競売(不動産や動産等の場合)をしたり、第三債務者から直接取り立てる(債権の場合)ことでお金に換え、債権の満足に充てます。
差し押さえをすることができる財産については、下記記事をご参照ください。
よくあるご質問「相手が養育費を払わない場合、強制執行することはできますか。何を差し押さえることができますか。」
2. 養育費については「取り決め」が必要
養育費は、監護親と非監護親の間で金額等の取り決め等があり、はじめて具体的な義務となります。取り決めの方法は合意、調停、審判または判決(附帯処分)です。
養育費について取り決めがなく、具体的な義務が発生していない状態では、養育費を払っていないからといって差し押さえをすることはできないことに注意が必要です。
3.債権を証明する「債務名義」
差し押さえは相手の財産に実力行使をする強力な手続きですから、その前提となる権利義務関係を確実に証明しなければなりません。そのために要求されているのが「債務名義」です。債務名義の種類は民事執行法22条に列挙されていますが、主なものとしては次の通りです。
- 確定判決
- 審判
- 調停調書
- 和解調書
- 執行認諾文言付きの公正証書
債務名義がない場合(合意書のみを作成して公正証書にはしていない場合など)、差し押さえをするためには、訴訟を提起して判決を取るなどの方法でまず債務名義を取得する必要があります。
債務名義の送達その他の差し押さえ手続きの流れについては、下記記事をご参照ください。
よくあるご質問「養育費の強制執行の流れを教えてください。」