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養育費のよくあるご質問
養育費の強制執行のデメリット

養育費の回収に際して強制執行のデメリットはありますか。

強制執行にはいくつかの種類があります。
預貯金の差し押さえの場合、金融機関が特定できないことや、残高がなく空振りに終わるリスクがあります。給料の差し押さえの場合、勤務先が特定できないことや、差し押さえに成功しても退職してしまうリスクがあります。不動産の差し押さえの場合、手続に時間・費用がかかることや、いわゆるオーバーローン(不動産の価値より住宅ローン残債の方が多いこと)のリスクがあります。ほかには保険や動産等の差し押さえがあり、それぞれメリットやデメリットがあります。
弁護士 本田昭夫
弁護法人中部法律事務所名古屋事務所所属

1.預貯金の差し押さえのデメリット

預貯金の差し押さえとは、債務者が金融機関に対して持っている預金債権を対象とした強制執行です。預貯金を差し押さえることができれば、差押命令が金融機関に送達した時点での預貯金を直接取り立てることができます。相手の預貯金からまとめて回収できる可能性があるので、養育費の回収のためには有効な手段の一つです。

しかし、預貯金の差し押さえをするためには相手の口座が存在する金融機関と支店名がわかっていなければならないので、相手の口座が特定できない場合は、まずは相手の口座がある金融機関・支店名を調査しなければ、差し押さえの手続を進めることができません。

また、預貯金を差し押さえることができたとしても、相手の口座にいくら入っているかは差し押さえてみるまでわからず、差し押さえた時点では預貯金残高が空になっていることもあります。

預貯金の差し押さえをすることを事前に相手に感づかれると、お金が別の口座に移されたり現金化される可能性もありますから、秘密裏に進めることが重要です。

2.給料の差し押さえのデメリット

給料の差し押さえは、相手が勤務先に対して持っている給与債権に対する強制執行です。「〇〇年〇月分の給与」のように特定の月の給与を差し押さえるだけではなく、「〇〇年〇月分以降の給与」という形で継続的に差し押さえることができるのが大きな特徴です。このため、将来に渡り定期的に発生する養育費の回収と相性がよく、相手が会社勤めで定期的な収入があるとわかっている場合にはまずこの方法を考えるのが通常です。なお、差し押さえることができるのは、原則として給与の手取額の2分の1までです。

ただし、給料の差し押さえをしても、その後会社を退職されてしまうと、差し押さえるべき給与債権がなくなるため、月々回収できていた養育費はストップしてしまうことになります。相手が転職した場合、転職先を調べて再度給与の差し押さえをしなければなりません。

もっとも、2020年4月に施行された改正民事執行法で新しく設けられた第三者からの情報取得手続により、転職先の調査は行いやすくなっています。

3.不動産の差し押さえのデメリット

不動産の差し押さえ(強制競売)は、相手が所有している不動産に対する強制執行です。不動産を差し押さえて換価し、その売却代金を債務の支払いに充てます。一般的に不動産は価値が大きいものが多いため、多額の未払養育費をまとめて回収できる可能性があります。

しかし、不動産の強制競売の手続きには時間や費用がかかります。

強制競売においては、開始決定、現況調査、期間入札等の様々な手続を経る必要があるため、換価が実現するまでには開始決定から半年以上の期間を要することが通常です。また、申立ての際には予納金として原則70万円(名古屋地方裁判所の場合)を納める必要があります。この予納金や強制執行に要する費用は、換価できた場合には優先的に返済されますが、後述の無剰余取消の場合等には一部が戻ってこないこともあります。

不動産がいわゆるオーバーローン(不動産の価値より住宅ローン残債の方が多いこと)の場合には、不動産を売却して換価したとしても、換価金は住宅ローン債権者(優先債権といいます。)への返済に充てられ、差し押さえた人には剰余がないという可能性が高くなります。そのため、裁判所が不動産を評価する際に、そこで設定した最低売却価額が手続費用や優先債権の金額に満たない場合は、強制競売の手続は原則として取り消されてしまいます(無剰余取消といいます。)。この場合、既に納めた予納金のうちそれまでの手続きに使った部分は返ってこないため、費用だけを負担し、返済を受けられないということになります。

4.その他の財産の差し押さえについて

預貯金、給料、不動産のほかにも、相手方が所有している財産であれば、保険解約返戻金や動産、自動車等、様々なものを差し押さえることができます。しかし、それぞれの強制執行にはメリット・デメリットがありますので、ご検討の際は弁護士にご相談ください。

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