過去の未払い分については全額支払いを受けない限り、また将来分については一括で受け取るか、よほど確実な支払いの見込みが立たない限り、取り下げない方がよいでしょう。
解説
1.差し押さえの取り下げ
取り下げとは一般的に、手続きの申立人が申立ての意思を撤回し、手続きを終了させることです。
強制執行の申立てにおいても取り下げは認められます。給与債権の差し押さえも強制執行の一種ですから、取り下げることができます。
取り下げの方法は、強制執行を申し立てた裁判所に「取下書」を提出することによって行います。
取り下げが受理されれば回収した部分を除き強制執行は初めから手続がなかったものとみなされます(但し、時効との関係では催告の効力が生じます。)。
取り下げの後に再度差し押えをしたい場合には、たとえ同じ債権に基づいて同じ財産を差し押さえる場合であっても、再び強制執行の申立てをする必要があります。そのため、取り下げをする際には同時に強制執行申立てに使った債務名義を返してもらうのが通常です。
2.取り下げはどのような場合に行われるか
強制執行の申立てを取り下げることは実務上珍しくありません。その理由として多いのは、たとえば銀行口座を差し押さえたが中身がほとんどなかったなど、いわゆる空振りの場合です。別の財産に強制執行を申し立てるために債務名義を使う必要があるので、取り下げをして前の強制執行を終了させ、債務名義を取り戻してから次の強制執行を申し立てます。
また、ご質問のように差押えをされた相手が任意の支払いを申し出てきて、それを受け取る代わりに取り下げるというケースも少なくありません。
3.取り下げに応じる場合の注意点
相手を信用して取り下げるのも自由ですが、いずれまた不履行になった場合に再度強制執行の手間と費用をかけさせられることや、その時に相手に十分な資力がある保証もないことを考えると、全額支払うという口約束だけで取り下げることはお勧めできません。
基本的には、全額支払いを受けてから取り下げるべきです。
とくに過去の分はすでに不履行になっているわけですから、先延ばしにするメリットはありません。
将来分は確実に履行される見込みがあるといえるのかどうか、慎重に検討しなければなりません。どのような条件で和解すべきか、状況により異なりますので弁護士にご相談ください。
なお、将来分の養育費について、その合計額より多い金額を弁護士に預け、弁護士とともに支払いを誓約するなどしても請求権者が取り下げに応じていなかった事案で、裁判所が「客観的に養育費の任意履行が見込まれる状況にある」と認め、将来分についての差押命令の取り消しを行った裁判例があります(東京地裁平成25年10月9日決定)。履行の確実性を判断する際の参考になると思います。