養育費の不払いそれ自体には刑事上の罰則はありません。養育費の取り決めをしている場合でも、あくまで民事上の債務不履行の状態にあるだけです。
しかし、養育費の請求権者が強制執行に踏み切り、財産開示請求という手続きを行った場合、裁判所からの開示命令に従わないと刑事罰が科される可能性があります。この罰則は2020年4月1日施行の改正民事執行法により行政罰から刑事罰に変更され、重くなりました。
1.養育費を払わないことに対する刑事罰はない
離婚の時に養育費の取り決めをしたかどうかにかかわりなく、養育費を払わないことは犯罪ではなく、不払いに対する刑事罰は現時点(2021年)で存在しません。
もっとも、養育費の不払いが社会問題となり、解消に向けた施策が検討されている現状に照らせば、将来において何らかの刑事罰が設けられる可能性もゼロではないと思われます。
2.差し押さえのためには相手の財産を把握する必要
養育費を払わない非監護親に対し、監護親は強制執行を申立て、相手の財産を差し押さえてそこから養育費を回収できる可能性があります。強制執行に必要なものは、大きく分けて次の二つです。
- ①執行力のある債務名義
- ②相手の財産
債務名義とは、養育費の取り決めをした調停調書や公正証書などです。これらが無い場合、まずは調停を申し立てるなどして債務名義を手に入れる段階から始める必要があります。
債務名義があっても、相手の財産が把握できていないと強制執行はできません。強制執行は相手の財産を探索してくれる手続きではなく、申立ての際には、財産を特定する必要があります。預金ならば金融機関名と支店名、給与ならば勤務先の名称と住所などが判明している必要があります。
しかし、離婚した後にはこれらのことが容易に把握できないことも珍しくありません。そのために、財産開示手続きという制度が用意されています。財産開示手続きは①の債務名義があることを前提に、相手を直接裁判所に呼び出して裁判官が財産の有無や情報などについて質問し、強制執行に必要な事項を答えさせるものです。
3.財産開示手続きと陳述等拒絶の罪
財産開示手続きでは、債務者は嘘偽りなくありのままを述べるという趣旨の宣誓をした上で、裁判官らの質問に答えて陳述をしなければなりません。宣誓をしたのに陳述を拒絶したり嘘を述べた場合には罰則があります(民事執行法213条1項6号)。
この罰則が、2020年4月1日施行の改正民事執行法により変更され、重くなりました。
<改正前>30万円以下の過料
<改正後>6月以下の懲役または50万円以下の罰金
改正前の過料とは行政罰で、前科はつきません。改正後は刑事罰になり、懲役も加わったという点で制裁はかなり重くなりました。これにより財産開示の実効性を高めるというねらいがあります。
養育費の強制執行について詳しくは養育費の強制執行・差押えをご覧ください。
財産開示手続きの申立て方法等について詳しくはよくあるご質問「財産開示手続きを使って養育費を請求するほう方法について教えてください」をご覧ください。