A:家庭裁判所で採用されている考え方によれば、養育費は、相手の収入のうち4割から6割程度を生活費に回せる部分(基礎収入)とし、その基礎収入の一定割合を子供の生活費とし、さらにその子供の生活費を自分と相手の基礎収入の割合で按分して算出します。算定表はこの計算結果を表にしたものです。
目次
解説
1.計算のための考え方
家庭裁判所で採用されている養育費算定の基本的な考え方を説明します。
まず、養育費は親である以上誰でも負っている未成熟子に対する扶養義務を根拠にしています。この扶養義務は親族一般に認められる扶養義務よりも強く、余裕があるなしにかかわらず自分と同等の生活レベルを維持できるように経済的に面倒を見る義務だと考えられています(生活保持義務)。
このことから、離婚後に子供を引き取らない方の親も、自分の収入に応じた子供の生活費を負担すべきだということになるのです。
そして、両親の間では公平に子供の生活費を分担するべきです。双方の収入(働けるのに働いていない人については、潜在的なものも含む)に応じた割合で分担しあうのが公平と考えられています。
2.計算の流れ
以上の考え方を元に計算方法を考えていくと、次のような流れになります。
権利者(養育費を受け取る側の親)と義務者(養育費を支払う側の親)の総収入を把握 |
家庭裁判所ではこの計算を迅速に行うため、基礎収入の算出の段階では統計データなどを活用した「基礎収入割合」という数値を利用し、子供の生活費の算出の段階では、平均的な子供の生活費と教育費を踏まえた「生活費指数」という数値を利用しています。これがいわゆる「標準的算定方式」です。
3.計算の各段階の説明
(1) 総収入の認定
まず、権利者と義務者それぞれの総収入を把握します。家庭裁判所では、当事者に資料を出してもらって認定します。基本的に、給与所得者については源泉徴収票に記載された「支払金額」が総収入であり、自営業者については確定申告書に記載された「課税される所得金額」に、次のものを加算した額が総収入とされます。
①現実に支出されていないもの
「雑損控除」、「寡婦、寡夫控除」、「勤労学生、障害者控除」、「配偶者(特別)控除」、「扶養控除」、「基礎控除」、「青色申告特別控除額」、「専従者給与(控除)額の合計額(現実の支払がない場合)」
②算定表で標準額が既に考慮されているもの
「医療費控除」、「生命保険料控除」、「地震保険料控除」
③婚姻費用・養育費の支払に優先しないとされているもの
「小規模企業共済等掛金控除」、「寄附金控除」
(2) 基礎収入割合を使った基礎収入の算出
総収入から公租公課、職業費、特別経費を引いた残りが生活費に回せる部分と考えられ、これを「基礎収入」と呼びます。昔の裁判所実務ではこれらを個々に資料から認定するやり方がとられていたこともありましたが、非常に時間がかかってしまうため、法令に基づく税率や統計データを元に概算するようになりました。
①給与所得者の場合
公租公課 |
所得税、住民税、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等) |
法令に基づく税率と徴収率から、総収入の約8%〜35% |
職業費 |
被服費、交通費、通信費、書籍費、諸雑費、交際費等 |
統計データから、総収入の約18%〜13% |
特別経費 |
住居関係費、保健医療費、保険掛金 |
統計データから、総収入の約20%〜14% |
3つの控除を合わせ、おおむね総収入の54%〜38%が基礎収入となります(所得が高いほど割合は小さい)。
②自営業者の場合
自営業者の総収入は上記の社会保険料と職業費にあたる経費を控除した後の課税所得でとらえるので、そこからさらに控除するのは所得税、住民税、特別経費となります。これらを①と同様に統計データ等に基づいて概算で控除する結果、おおむね総収入の61%〜48%が基礎収入となります(所得が高いほど割合は小さい)。
基礎収入割合
給与所得者: 54%〜38%
自営業者: 61%〜48%
たとえば、義務者が年収600万円の給与所得者だとして、基礎収入割合41%を採用すると、基礎収入額は246万円となります。権利者は年収300万円の給与所得者だとして、基礎収入割合42%を採用すると、基礎収入額は126万円となります。
(3) 生活費指数を使った子供の生活費の算出
次に、義務者の基礎収入から子供の生活費に充てるべき部分を算出します。
子供には一般に大人と同等の生活費まではかからず、年齢によってもかかる費用は違いますから、単純に頭数で割ると公平でなくなります。
そこで、まず年齢はおおむね義務教育終了前後で分けて0〜14歳と15歳以上(未成熟子でなくなるまで)の2区分としています。
生活費については、生活保護制度で用いられている基準に基づいて子供に最低限必要な費用を決め、それに平均的な教育費を足します。それが大人の生活費の何%になるかという観点から整理した結果、次のような数値が採用されており、これを生活費指数と呼んでいます。
この数値も2019年12月からの新算定表で更新されており、ここでは新算定表によっています。
生活費指数(大人を100とする)
0〜14歳: 62
15歳以上: 85
この割合で義務者の収入を分け合うならば、どれくらいが子供の分になるのかという考え方をします。義務者が1人で子供の面倒を見るとすればという仮定を含んでいます。
親の未成熟子に対する扶養義務は生活保持義務なので、親の分を取ってから残りを与えるのではなく、最初から割り算で分割します。
たとえば7歳、10歳、17歳の3人の子供の生活費を計算する場合、計算式は次のようになります。
義務者の基礎収入×(62+62+85)/(100+62+62+85)=子供の生活費
この例で義務者の基礎収入額を246万円とした場合、子供の生活費は166万3883円となります。
(4) 権利者と義務者の基礎収入比による按分
最後に、義務者の基礎収入だけで算出した子供の生活費を、権利者・義務者間で公平に分配します。
子供の生活費×義務者の基礎収入/(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)
上記の例ですが、子供の生活費が166万3883円、義務者の基礎収入246万円、権利者の基礎収入126万円だとすると、110万0310円が義務者の分担額となります。これを12で割った9万1692円が、養育費の月額となります。
4.計算式のまとめ
義務者の基礎収入=義務者の総収入×基礎収入割合
権利者の基礎収入=権利者の総収入×基礎収入割合
子供の生活費=義務者の基礎収入×子の生活費指数合計/(義務者と子の生活費指数合計)
養育費年額=子供の生活費×義務者の基礎収入/(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)
5.算定表の利用
基礎収入割合と子供の生活費指数をあらかじめ決めておく結果、個別の事案ごとに把握しなければならない項目は義務者の総収入、権利者の総収入、子供の年齢と人数のみになります。
縦軸に義務者の総収入、横軸に権利者の総収入を取って計算結果を表にしたものを、子供の年齢と人数ごとに用意したのが算定表です。
どなたでもインターネット等で算定表を見て適正な養育費の額(家庭裁判所で決める場合の相場)を確認できます。
上記の例では「子3人表(第1子15歳以上、第2子及び第3子0〜14歳)」という表を使い、縦軸で給与所得者の600万、横軸で給与所得者の300万の交差するところを見ると、「8〜10万」の中央あたりだと知ることができます。
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