養育費を協議や調停で合意する場合であれば、一括払いにするかどうかは当事者の自由です。家庭裁判所の審判や判決で養育費を定める場合には、よほどの事情がない限り、月々の定期的な支払いとなります。
一括払いとする場合のデメリットは、将来の事情変更に対応しきれない可能性があること、お金の管理能力がないと子供の養育に問題が生じる危険もあること、贈与税がかかる可能性があることなどが考えられます。

目次
1.養育費を一括払いにするケース
次のような事情があるときに、養育費の一括払いが検討されているようです。
①離婚後はもう一切かかわりたくない
②未婚で出産した子の養育費について、認知を求めない代わりに養育費を一括でもらう
③母子手当(児童扶養手当)の所得制限を回避したい
ただ、いずれも万全な方法とはいえません。
①は、親がそのように合意しても子供の扶養請求権まで放棄することはできないため、将来必要があれば請求可能です。逆に親から子供に対する扶養請求もありえます。親子関係は消すことができません。
②も、子供の認知請求権の放棄はできないため、認知を求めないという合意は無効とされています。
③は、たしかに養育費の所得算入は最初の年だけで済みますが、金額や期間によっては逆効果となることもありえます。
とはいえ、合意で養育費を一括払いとすることは自由です。調停でも大丈夫です。一括払いで受け取ってしまえば将来の履行の不安はなくなるので、その点はメリットといえます。
2.家庭裁判所の審判では一括払いにしない理由
合意ができず、家庭裁判所が判断する場合、養育費は月々の定期的な支払いとするのが原則で、一括払いはきわめて例外的にしか命じません。
その理由について触れている判例があります。
昭和31年6月26日東京高等裁判所決定
「元来未成熟の子に対する養育費は、その子を監護、教育してゆくのに必要とするものであるから、毎月その月分を支給するのが通常の在り方であって、これを一回にまとめて支給したからといってその間における扶養義務者の扶養義務が終局的に打切となるものでもなく、また遠い将来にわたる養育費を現在において予測計算することも甚だしく困難であるから、余程の事情がない限りこれを一度に支払うことを命ずべきでない。」
・資産家である内縁の元夫が認知した子の養育費として、一括払いを求めた事案
・本件では特段の事情は認められないとして、一括払いは認めなかった
親は月々の収入から子供のための費用をまかなうのが本来の姿であること、そして養育費には事情変更により増減の必要が生じる可能性があること、この2点が理由のポイントといえます。
3.例外的に一括払いを認めた判例
上記判例が「余程の事情がない限り」と例外の余地を認めているとおり、一括払いが絶対にダメなわけではなく、認めた判例が存在します。
昭和55年1月24日長崎家庭裁判所審判
「およそ、子から親に対する扶養請求は、要扶養状態の変動性その他の扶養請求権の特性に鑑み、定期的給付をもつてなされるのを建前とするところ、監護費用の分担は、これを形式的にみれば、右扶養請求とは異なり、父母の間で定められ、かつその間で効力を有するに止まるのであるから、将来の分について、一括払いを請求することもできる筋合いである。しかしながら、他面、監護費用分担の問題は、これを実質的にみた場合、子の扶養としての性質を帯有していることも否定できないところである。かような監護費用分担請求の二面的性格に照らすと、監護費用は、毎月その月分を支給するのを原則とし、将来に亘る分の一括払いを相当とする特段の事情があるときは、例外的にこれを肯定すべきものと解釈するのが相当である。これを本件についてみるに、前記4、5認定事実に照らすと、相手方において、将来に亘り、養育料の定期的給付義務の履行を期待し得る蓋然性は乏しいと推認されるから、かような場合は前記特段の事情があるものというべきである。」
・外国籍の医師である元夫に養育費の一括払いを求めた事案
・元夫は将来母国に帰国して戻らない予定であり、子供を自分の戸籍に記載することも拒否しているという事情から、特段の事情があるとした
・一括払いを命じた金額は500万円
この判例は、将来きちんと払っていかない可能性が高いという点を、判断のポイントとしています。現状では十分資産があるということも考慮されていると思われます。
4.養育費を一括払いにする場合の計算方法
上記の一括払いを認めた判例は、次の順序で計算しています。
(1)養育費をいつまで支払うか決める
20歳とされることが一般的ですが、実情に応じて判断します。
養育費がいつまでもらえるかについて詳しくは、「養育費は何歳から何歳までもらえますか。大学に進学した場合はどうなりますか。」をご参照ください。
(2)養育費の金額を決める
権利者と義務者の収入を認定し、算定表を用いて毎月の養育費の額を決めます。それを上記期間分合計します。
養育費の計算方法については「養育費の計算方法を教えてください。」をご参照ください。
算定表の使い方については「養育費算定表とは?養育費算定表の見方を弁護士が解説します。」をご参照ください。
(3)中間利息を控除する
中間利息控除とは、お金は運用で増えるはずだということを前提に、将来の長い期間にわたって発生するお金の総額を現時点で一括で受け取る場合には、期間中に生じるはずの利息分をあらかじめ差し引くという処理のことです。それにより、一括で受け取った額を仮にそのまま持っていたら、利息がついて最終的に同じ金額になるようにします。計算方法はいくつかあり、上記判例はホフマン方式という方法を用いました。
以上の計算方法のうち、(1)と(2)は合意で一括払いにする場合にもしっかり決めておくべきです。(3)はどちらでもよいでしょう。裁判所が用いている方式では、たとえば15年分の養育費が約11年分に減らされるような結果となりますが、前提としている利息が高くて実状に沿わないおそれもあります。お互いが公平だと感じる額にすればよいと思います。
5.一括払いにすることのデメリット
最後に、養育費を一括払いにすることのデメリットを説明します。
(1)将来の事情変更への対応が難しくなること
上記判例も指摘していた点ですが、養育費は長い間にわたって続き、その間に子供の要扶養状態も親の経済状況も変化しうるものです。それに対応するために、養育費には増額請求・減額請求の制度があります。養育費を決めた当時に前提としていた事情に変更が生じたと認められれば、金額を変更できます。当時においては予測できなかったといえることが条件となります。
しかし養育費を一括払いにする場合、今後何かあったとしてもそれは考慮しないで、この金額の範囲内でなんとかしてください、という意味になることがあります。変更を求めたり追加請求をしないという条項をわざわざ明文で入れるケースもあります。その場合、事情変更を主張しても、それは予測できなかった事情変更とはいえない、と判断される可能性が高くなります。
一括払いでも事情変更に対応できるようにするには、起こりうる変化を予測して、「〇〇の際には、別途協議する」などの協議条項を入れておくとよいでしょう。
(2)お金の管理能力が必要なこと
一括払いで養育費を受け取った親が、その養育費をきちんと子供のために使っているかどうかについて、支払った側は調べることもできず、口出しもできません。不用意に使い果たしてしまって子供の養育に支障が出るような事態が事実上懸念されるような場合には、一括払いをするべきではないでしょう。
なお、一括払いで受け取った1000万円の養育費を私立の学費に使い果たしてしまったことを事情の変更として追加請求をした事案で、事情の変更を認めなかった判例があります。
平成10年4月6日東京高等裁判所決定
「離婚調停における前記合意よりすれば、相手方は受領した養育費を計画的に使用して、養育に当たるべき義務があるものと解すべきであり」
「事件本人の養育方法については、相手方の資力の範囲内で行うべきで、これと無関係に私立学校に通学させるべきものとは認められない。」
「相手方としては、事件本人を私立学校と学習塾に通わせた場合には、高等教育を受ける以前に抗告人から支払われた養育費を使い尽くすことは当初から容易に予測可能であったと認められる」
「以上の事実によれば、前記の調停成立後にその内容を変更すべき事情の変更が生じたとは認めることはできず、事件本人が、既に就労可能な年齢に達していることを併せて考慮すれば、相手方の本件養育費請求は理由がない。」
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