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離婚の際、養育費はいらないと言ってしまったが、後から請求することはできますか。

請求できる可能性があります。まず、養育費を請求しない合意が成立したとまではいえないケースが考えられます。合意が成立していたとしても、子供自身の扶養請求権は放棄できないため、相手の扶養義務は消滅していません。合意の際に前提としていた事情が変更した場合や、自分だけでは十分に扶養義務をはたすことができない場合には、子供からの扶養料請求ができると思われます。その場合には、あなたが親権者であれば子供の法定代理人となって請求することになります。
弁護士 尾中翔
弁護法人中部法律事務所春日井事務所所属

1.養育費を請求しない合意

(1)どのような場合に合意するのか

養育費はいらないから離婚したい、養育費をもらわない代わりに子供と会わせないようにしたい、など一定の事情があって、養育費をいらないと言ってしまう方はいらっしゃいます。

このような合意も親どうしの間では有効と解されています。公正証書などの書面にする場合もあります。

口約束でも合意は成立します。ただ、話し合いの中でそういうことを述べただけでは、合意が成立したとまでは評価できないケースもありえます。その場合は通常どおり養育費の請求をすることができます。離婚後に養育費の請求をすること自体には問題ありません。

(2)子供の扶養請求権との関係

未成熟子の親は誰でも当然に子供に対する扶養義務を負っています。子供は親に対する扶養請求権を持っています。子供の父と母はこの扶養義務を分担して果たさなければなりません。

養育費は、離婚で子供を監護しないことになった方の親が、監護する方の親に対して、金銭の形でこの分担をしていくものという性質を持っています。

養育費を請求しない合意は、このような分担を親どうしの間では求めないという趣旨になり、この限りで効力を持ちます。

しかし、子供の扶養請求権は親からの養育費請求権とは別物なので、このような合意に影響されないのです。

かりに、子供を代理して扶養請求権まで放棄するという合意がなされたとしても、民法881条により扶養請求権は処分不可能なので、そのような合意は無効となります。

2.合意があっても扶養料請求できる場合

では、養育費を請求しない合意があっても、扶養料請求という形ならばいつでも請求してかまわないのでしょうか。

養育費を請求しない合意にもいろいろなケースが考えられ、それが離婚協議の中で重要な条件を果たしているような場合に、合意を成立させておいてすぐに態度を変えて扶養料請求するようなことまで許されるかというと、疑問が残ります。

判例を参考にすれば、以下のような事情があるときに、扶養料請求ができると思われます。

(1)事情変更があった場合

子供の進学や病気、親の収入の悪化など、合意の前提となった事情に変更があった場合には、扶養料請求が認められる可能性があります。

判例を紹介します。

昭和51年5月31日札幌高等裁判所決定

・調停離婚で元妻が子供を引き取ることに
・その際、口約束で養育費を請求しない合意が成立
・合意の効力として、元妻は元夫に養育費を請求できないし、子供が元夫に扶養料請求したら、元夫は元妻に求償できると判示
・したがって、結局お金が循環するだけだから、子供から元夫への扶養料請求も通常はできないが、事情変更があれば別だとして、次のように判示

しかし扶養義務者たる親同士の間の前示のような合意が成立した後、扶養権利者たる子の扶養需要が増大したり、扶養義務者たる親の一方又は双方の資力に変動を生じたり、その他要するに右合意成立のときに前提となつた諸般の事情に変更が生じた場合は、当事者間の協議でもつて前の合意を取消・変更し、また家庭裁判所がかかる合意を取消・変更しうることのあること勿論であるが、その点はさて措き、扶養義務者たる親同士の間の前記のような合意の存在のゆえに、関係者間の法律関係を簡易直截に決済するという方法をとるときは、扶養権利者たる子の福祉を害する虞があるので、右のような方法をとることは許されないものであること当然であり、従つて右のような場合、扶養権利者たる子は、右合意において養育費負担を約した親と同一経済基準に立つて生活していると否とを問わず、他方の親に対して扶養請求権を行使することができることになるものである。

・本件では事情変更は認められないとして、扶養料請求を却下

・ただし、今後事情変更が生じた場合には、扶養料請求ができると付け加えた

もっとも、本判例が指摘しているとおり、事情変更は養育費の変更の条件でもありますから、養育費を請求しないという合意そのものを取り消すことができる可能性もあります。

(2)監護親だけでは十分に扶養義務を果たせない場合

養育費を請求しない合意があっても扶養料請求できるかどうかを分けるポイントとなるのは、それを認めないと子供の福祉を害することになる、という点にあると思われます。

したがって、子供を引き取った親に扶養能力がない場合には、それが事情変更によるものでなかったとしても、扶養料請求が認められる可能性があります。

昭和54年6月18日大阪高等裁判所決定

右認定の事実によれば、子の養育費の負担につき、養育義務者である父母の間で、母から父に子の養育費を請求しないとの合意が成立していると認められるのであるが、しかしながら右合意は養育義務者間でのみの合意であつて、これによつて子に対する扶養の義務を免れさせる効果をもつものではない。すなわち右合意により父たる抗告人の事件本人未成年者両名に対する扶養義務が消滅するわけではなく、母である相手方が両名を扶養する能力を欠くときは、父である抗告人から未成年者両名に対する扶養義務が果されなければならない。
・ただし養育費を請求しない合意の存在は、扶養料の金額を算定する上で有力な斟酌事由となる、と判示

 

3.扶養料請求の方法

扶養料請求は養育費請求と同様で、まず当事者の協議で定め、協議が調わないとき、または協議ができないときには家庭裁判所に定めてもらうことができるとされています(民法879条)。

家庭裁判所での手続は審判となります。親権者は法定代理人として申立てをすることができます。

審判ではなく調停を申し立てることもできます。審判を申し立てても職権で調停に付されることもあります。調停が不成立となれば自動的に審判に移行します。

 

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