A. 有責配偶者でも養育費はもらえます。養育費は、子供の養育のための費用であって、親の生活費分は含んでいませんから、婚姻費用とは異なり、有責だからといって減額されることはありません。未成熟子の親である限り支払義務があります。
ただ、それとは別に不貞行為について慰謝料請求される可能性はありますが、それをもって養育費と相殺することはできないことになっています。
解説
1.有責配偶者からの養育費請求
妻が不倫をし、子供を連れて家を出て行ってしまった。このような状況で妻がお金の請求をしてきたら、払いたくない気持ちになるのは自然なことかもしれません。しかし、妻のためのお金と子供のためのお金に分けて考える必要があります。
離婚前は、夫婦の協力扶助義務により、婚姻費用分担請求をすることができ、この中には妻の生活費と子供の養育費が両方含まれています。有責配偶者からの婚姻費用分担請求に対しては判例も厳しく、婚姻関係破綻の主たる原因となった側からの請求は減額ないし免除という判断をしています。ただし、それは妻の生活費分だけで、子供の養育費分については減額しません。
離婚後は、協力扶助義務がなくなり、養育費の請求しかできなくなります。養育費には、最初から元妻の生活費分は含まれていません。したがって、有責配偶者であっても養育費の請求が減額されることはないのです。
以上は妻が有責配偶者であり、妻が養育費の権利者であるパターンを想定して解説しましたが、男女が逆でもまったく変わりありません(以下同じ)。
2.慰謝料と養育費の関係
不倫は不法行為ですから、不倫された側は慰謝料を請求することができます。不倫自体、または不倫のせいで離婚に至ったことによる精神的苦痛に対する損害賠償です。この慰謝料請求権は、養育費とは別個に存在しますから、養育費は払ってもらいつつ、慰謝料は請求されるという事態もありえます。
それにより結果的に養育の費用が足りなくなるということも考えられますが、自らの不法行為の責任を問われる結果なので、これはやむをえません。
ただ、慰謝料請求権を養育費と相殺してしまって毎月の養育費を払わない、という手段はとることができません。なぜなら、相殺は差押禁止債権についてはできないことになっており、養育費は差押禁止債権だからです。
たとえば、有責配偶者である元妻から養育費の審判を申し立て算定表通りの養育費の金額が定まり、元夫からは妻に慰謝料請求の訴訟を起こして勝訴判決を取っているとします。このような場合でも元夫は決まった額の養育費を毎月支払わなければならないし、払わない場合には元妻から強制執行も可能です。
3.養育費ゼロなどで合意してしまった場合
法律的には以上のとおりですが、当事者間の合意で法律の結論と異なる内容を定めることは基本的に自由なので、元夫からは慰謝料を請求しない代わりに、養育費はゼロとするなど、実質的に相殺のような内容で合意してしまうこともありえます。これ自体は無効とはいえません。
しかし、子供の養育に必要な費用は、子供自身からも請求できます。子供を監護する親から請求する場合は養育費ですが、子供自身から請求する場合は扶養請求(扶養料請求)といいます。
親が勝手に養育費請求権を放棄してしまったとしても、子供自身の扶養料請求権までは放棄できないとされています(放棄しても無効)。
そこで、現に必要な扶養料を受け取っていない状態であれば、子供から非監護親に対して扶養料請求をすることができる可能性があります。
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参考条文
民法
(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止) 第五百十条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 (扶養義務者) 第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。 2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。 3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。 (扶養請求権の処分の禁止) 第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。 |
民事執行法
(差押禁止債権) 第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。 一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権 2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。 3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。 |